2019年12月03日

【レポート】11月16日「My Favorite Songs〜佐山雅弘メモリアル・コンサート」

 川崎駅前にある「ミューザ川崎シンフォニーホール」は、客席数約2000、音響などはクラシック音楽に適したつくりとなっているホールだ。しかしここではジャズのコンサートもたびたび、当たり前のように開かれる。そんな場をつくるのに貢献した一人が、長年にわたりホールアドバイザーを務めたジャズピアニストの佐山雅弘さんだろう。

 佐山さんはジャズピアニストとしてだけではなく幅広く活動し、オーケストラとの共演も多い。ミューザではジャズピアニスト6人が一堂に会する「ジャズ・ピアノ6連弾」など、さまざまな新しい企画を行った。またその明るく温かい人柄でも、多くの人から親しまれ、慕われていた。

 個人的には、一度だけ佐山さんのライブを見に行ったことがある。2015年の「フェスタサマーミューザ KAWASAKI」の企画の一つ、同じミューザ川崎で行われた「サマーナイトジャズ」のコンサートだった。たった一度見ただけだったけれど、佐山さんの演奏と人柄が印象に残った。

 佐山さんは昨年11月14日、64歳という若さで逝去された。そして今年、「かわさきジャズ」の中で、佐山さんのメモリアル・コンサートが企画された。客席には、ミューザには慣れた様子のシニア層が多く目についた。

 第1部は「佐山雅弘が育てた若手ミュージシャン」。アルトサックスの寺久保エレナは、高校生のときから佐山さんと「Red Zone」というバンドを組んでいた。アドリブソロには時折、チャーリー・パーカーのフレーズが混じり、その音色もあわせて「王道」という言葉が浮かぶ。この日披露された4曲のうち、2曲がRed Zoneのレパートリー。そして、最後に演奏した佐山さんのオリジナル曲「PーBOP」は、変拍子だが確かにバップの曲。佐山さんが愛していた音楽が少しわかるような気がした。

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 休憩の間、ホワイエでは多くの人がアルコールやジュースを飲んでいた。クラシックのコンサートなどではよくあるが、ジャズではなかなかこんな光景は見ない。着物姿の女性も複数いる。独特のジャズ文化がこのホールに、川崎市に根付いている気がする。

 続いては「ジャズ・ピアノ6連弾の仲間たち」。佐山さん発案による名企画「ピアノ6連弾」で全国ツアーをともにした、名ジャズピアニスト4人が集結する。しかし、開演前にも流れていたアナウンスが第2部の開始前に再び流れる。ピアノの国府弘子が急な体調不良のため休演となり、第2部は残りの3人のピアニストで務めるというのだ。

 客席が暗転し、3人が登場。まずは一人ずつ弾き、3人で「かわさきリボーンブルース」。小原孝はまず佐藤允彦の横で高音部を弾き、立ち上がって今度は塩谷の隣で。MCがなくても、動きと演奏で場内は明るい雰囲気に包まれる。

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 曲が終わると小原がマイクを取り、国府のことを話しはじめた。この日、会場に来てリハーサルも行ったが、急に具合が悪くなって搬送されたという。会場の隣が病院で、急性心筋梗塞と診断されてすぐに手術が行われ、第2部が開演する前には無事終了したという。「動画でメッセージが来てましたよ、ほんとにごめんね〜って」と塩谷も言葉を挟む。小原は「佐山さんや(ピアノ6連弾のメンバーで昨年亡くなった)前田(憲男)さんが向こうから送り返してくれたんですよ。国府弘子、元気になりました!」と力強く。もちろん、まだまだ大変な状況なのだろうが、その言葉で観客はひとまずほっとして、その後のステージを楽しむことができた。1年前、佐山さんに代わってかわさきジャズのステージを務めた国府を、今度は3人で支える形だ。

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 この日の選曲は国府が行ったという。佐山さんのオリジナル曲を演奏するソロのコーナーで、佐藤は時間をたっぷりと使い佐山さんの話をした後に「Sand Witch」を。「話が長い!」と言いながら登場した塩谷は、知ってすぐ好きになったという「Pooh Song」を。とりわけ心に深く刺さったのは、最初に登場した小原の「Hymn for Nobody」だった。小原と佐山さんがオリジナル曲を交換することになり、佐山さんが小原に「歌ってほしい」と渡した一曲。本当は国府が一緒に演奏する予定だったそうだが、急きょ小原が一人で演奏した。弾いているときにマイクを立てるスタンドもなく、小原は右手でマイクを握ったまま。左手と、間奏の部分で右手の人差し指だけを加えた6本の指で、困った様子などみじんも見せずに美しく弾く。歌い始める前、小原が歌詞を書いたのは忌野清志郎氏であると紹介すると、会場からは小さなどよめきが起こった。「限りある生命が やがて幕を閉じても 永遠の夢のように 君に夢中さ」。この日はその歌詞がとりわけ深く響いた。

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 第3部は、「佐山雅弘トリビュートバンド」。ホーンセクションを交えた豪華バンド陣のほか、圧倒的な歌唱力とパワフルかつ澄んだ繊細な歌声を持つMay J.がスペシャルゲストとして名を連ねる。まずはテナーサックス三木俊雄とトランペット岡崎好朗の2管で「I remember Clifford」。交通事故で亡くなったトランペッター、クリフォード・ブラウンに捧げられたこの曲、クラシック向けのこのホールの音響を生かして、ベテランが音を響かせる。2曲目はトロンボーン中川英二郎をフィーチャーして「Do You Know What It Means To Miss New Orleans」を、3曲目には3菅そろって「Bittersweet」を演奏した第3部でリーダーを務めた三木はマイクを手に取り、佐山さんはハッピーなイメージがあると思うが、特に震災以降、1音を大切にする内省的な音楽も大切にしていた、第3部ではそういう面も見せたい、と話す。

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 次の曲はピアノトリオで。そしてこの日のスペシャルゲスト、May J.が呼び込まれた。佐山さんが亡くなったその日、共演予定だったというMay J.。佐山さんはアレンジをして事前のリハーサルにも参加したが、体調不良のため本番当日は息子の佐山こうたが出演することに。大変な状況の中弾ききったこうたに、May J.はこの日のステージで改めてお礼を述べ、こうたは「歌に癒されました」と笑った。佐山さんがアレンジした「Smile」。管楽器も加わった「What a wonderful world」では、バッキングをする管楽器の静かな音も、美しくよく響いた。

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 そしてアンコール。ステージには第1部と第3部の出演者が混じる。一曲目でフロントに並んだのは、May J.と寺久保エレナ。May J.がMCを務める番組以来約10年ぶりという共演で、並んで「You’d Be So Nice To Come Home To」を。そして2曲目でメンバーが入れ替わり、第2部の出演者も登場。佐山さんの曲「Love Goes Marching On」で、ピアニストは交代しながら弾き、弾かないときはマラカスを振り、ギロを奏でながら、明るくフィナーレを迎えた。

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 「知ってる曲、そんなにあったの?」会場を後にするお客さんの会話が耳に入る。きっと、普段からジャズが好きでよく聞くというわけではないのだろう。そんな人もごく自然にミューザを訪れて、楽しんで帰っていく。そんな川崎市のジャズ文化を醸成するのに大きく貢献した一人が佐山さんなのだろう。

 この日の出演者は口々に「佐山さんがそのあたりに来てくれている気がする」と話していた。確かに、明るくてかつ繊細な、佐山さんがそこにいるかのようなライブだった。この先、ミュージシャンたちが佐山さんの音楽を受け継ぎ、新しい音楽を紡いでいくだけではないだろう。一度醸成された文化は多くの人の心に根付き、簡単には消えない。佐山さんがここに残したものを、はっきりと目にすることのできるライブだった。

Text:Miyabe Haruka(かわさきジャズ公認レポーター)

◎公演情報
日時:2019年11月16日(土)17時開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
出演:
<第一部>
〜佐山雅弘が育てた若手ミュージシャン〜
寺久保エレナ(as)、馬場孝喜(g)、中林薫平(b)、福森康(ds)
<第二部>
〜ジャズ・ピアノ6連弾の仲間たち〜
国府弘子、佐藤允彦、小原孝、塩谷哲(以上、pf)
<第三部>
〜佐山雅弘トリビュートバンド〜
三木俊雄(ts)、岡崎好朗(tp)、中川英二郎(tb)、
佐山こうた(pf)、川村竜(b)、大坂昌彦(ds)
ゲスト・ヴォーカル:May J.

◎セットリスト
第一部
1. Dead Zone
2. How High The Moon
3. Flamingo
4. P-Bop
第二部
5. かわさきリボーンブルース
6. Well, You Needn’t
7. ボレロ
8. Hymn For Nobody
9. Sand Witch
10. Pooh Song
11. サヤ・マンボ
第三部
12. I Remember Clifford
13. Do You Know What It Means To Miss New Orleans?
14. Bitterweet
15. IN THE VELVET
16. Smile
17. Fly Me To The Moon
18. What A Wonderful World
19. Above Horizons
アンコール
Enc. You’d Be So Nice To Come Home To
Enc. Love Goes Marching On 
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2019年11月30日

【レポート】11月15日「Colorful JAZZ〜細川千尋 × 山下伶 × はたけやま裕」

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 【かわさきジャズ2019】の音楽公演プログラムのひとつである【Colorful JAZZ〜細川千尋 × 山下伶 × はたけやま裕】が11月15日、ラゾーナ川崎プラザソルにて開催された。

 細川千尋(pf)、山下伶(クロマチックハーモニカ)、はたけやま裕(per)、実力派女性アーティスト三人の初共演が高い注目を集めた同公演。モノトーンの衣装を纏った三人がオンステージし、スティーヴィー・ワンダーのヒットナンバー「愛するデューク(Sir Duke)」でショーがスタート。タイトルの“サー・デューク”ことデューク・エリントンを筆頭に、ジャズ界の先駆者たちへの愛と敬意をゴキゲンに歌いあげた同曲は、金曜19時、ジャケットを脱ぎ、週末をはじめるのにうってつけのナンバーである。細川、山下のソロに続き、はたけやまの繰り出す軽快なリズムとサイレンホイッスルの音色が、そのワクワク感をさらに高めてくれる。

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 第一部・第二部ともに、それぞれの演奏したい曲を持ち寄ったというこの日。キラキラした瞳で顔を見合わせながら、お互いのオリジナル・ナンバーを大切に奏でる細川と山下、そして、そんな二人を母のような眼差しで見守りながら、力強く、確かなリズムで支えるはたけやま…そんな三人の構図がなんとも自然で、この日が初共演という心の中の“メモ”はすぐにどこかへと消え去った。

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 和やかな雰囲気でスタートしたショーも、第一部終盤あたりから徐々に熱を帯び、その形相を変えてゆく。第一部のラストを飾った「レフト・アローン」では、はたけやまがトルコの打楽器ダラブッカでリズムを変幻自在に操り、会場を無国籍なグルーヴが包み込む。そして、第二部、繊細さとエモーションを兼ね備えた細川のピアノがスリリングなセッションをぐいぐいと引っ張る「ナーディス」は、まさに圧巻のひと言!“変化球”的アレンジでこれらジャズ名曲が披露されると、会場にはひと際大きな拍手と歓声が巻き起こった。

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 そして、そんな緊張感あふれるセッションを繰り広げた後には、 “ひと呼吸”とばかりに「枯葉」を直球アレンジでしっとりと演じ、それぞれソロをたっぷりと聴かせる。見事な緩急である。また、演奏の合間には三者三様の「縁」があったという、昨年逝去されたピアニストの佐山雅弘氏との思い出を語る一幕も。ミューザ川崎のホールアドバイザーを務め、【かわさきジャズ】の発展にも多大な貢献を果たしてくれた佐山氏。「さっき、佐山さんぽいフレーズがあったよ!」「もしかしたら、そこらへんにいるのかも!」などと嬉しそうに話す三人を通して、改めて佐山氏が【かわさきジャズ】に残してくれた「音楽」と「縁」、そして、その人柄に思いを馳せた。

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 この日に演奏された最後のオリジナル曲は、はたけやまが生まれ故郷の岩手・陸前高田市「ハナミズキのみちの会」の応援ソングとして書き下ろしたナンバー「ハナミズキの願い」。優しく、力強く、そしてどこか懐かしいメロディーを山下が歌うように伸びやかに奏で、誰もが持つ“愛する故郷”の情景を浮かび上がらせると、最後は再び「りんご追分」を変化球的アレンジで演じて本編終了。アンコールはボサノヴァの名曲「ワン・ノート・サンバ」。終演後の三人の弾けるような笑顔と、まだ耳に残るボサノヴァの洒脱なリズムが家路の足取りを軽くさせる。

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 今年9月にメジャーデビュー作『My variations』をリリースし、来年1月には記念公演も控える細川、11月27日にメジャー4作目となる『Eternal Ensembles』が発売したばかりの山下、そして、一流アーティストら多数のセッションに引っ張りだこのはたけやま。ますます活躍の場を広げていくであろう三人が、再び同じステージに立つ日を楽しみに待ちたい。

Text by AT

◎公演情報
日時:2019年11月15日(金)19時開演
会場:ラゾーナ川崎プラザソル
出演:細川千尋(pf)、山下伶(クロマチックハーモニカ)、はたけやま裕(per)

◎セットリスト
第1部
1. Sir Duke
2. Someday My Prince Will Come
3. Holiday
4. 木もれび
5. Left Alone
第2部
6. Espoir
7. Nardis
8. Autumn Leaves
9. ハナミズキの願い
10.りんご追分
Enc. One Note Samba
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2019年11月29日

【セットリスト&レポ】11月14日「Versatile JAZZ〜井上銘×奥田弦」

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日時:2019年11月14日(木)19時開演
会場:ラゾーナ川崎プラザソル
出演:井上銘(g)、奥田弦(pf)

◎セットリスト
第1部
1. Del sasser(サム・ジョーンズ)
2. All The Things You Are(ジェローム・カーン)
3. TAKE 5 A Train
4. Old Folks(ウィラード・ロビソン)
5. Get Over(奥田弦)

第2部
6. 奥田弦ソロ
7. The Lost Queen(井上銘)
8. イパネマの娘(アントニオ・カルロス・ジョビン)
9. インプロビゼーション
10. 井上銘ソロ
11. ウンポコロコ(パド・パウエル)
Enc. 酒と薔薇の日々(ヘンリー・マンシーニ)

ともにJAZZ JAPAN AWARD ニュースター部門受賞者である井上銘×奥田弦によるスペシャル・ライヴ!井上銘は川崎市出身の28歳で、世界を舞台に活躍するジャズ・ギタリスト! 井上率いるバンド〈STREO CHAMP〉のドラマー福森康は佐山雅弘のサポートメンバーも務めていた実力派で、11月16日に行なわれた佐山雅弘メモリアルコンサートでもパワフルな演奏を聴かせてくれた。第二部の演奏中、井上の歌声が自然に漏れていたのが聴こえ、楽曲の世界にぐっと入り込む彼の表現力の豊かさを感じた。奥田弦は10歳でCDデビュー。 12歳で史上最年少作曲家JASRACメンバーとなり、昨年のかわさきジャズにも出演。実は、サックスを吹く練習をし過ぎて、肺に炎症を起こしたとのエピソードも。2年後、20歳になったらまたやりたいとコメント。 私も応援してます!!
Text by 金井まち子 (かわさきジャズ公認レポーター)


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posted by kawasakijazz at 15:06| Comment(0) | レポート