かわさきジャズ 公式ブログ

2021年11月24日

【ライブレポート】11/10「The Three Muses~ジャズヴォーカルの煌めき」〜女神はチャレンジがお好き?

 2021年11月10日、宮本貴奈(p)、市原ひかり(tp)、石川紅奈(b)による「The Three Muses~ジャズヴォーカルの煌めき」がラゾーナ川崎プラザソルにて開催された。

 ミューズとは文芸・学術・音楽・舞踏などをつかさどるギリシャ神話の女神。他のジャズフェスと比べ出演者の女性比率が高いと日頃から感じてはいたのだが、かわさきジャズも今年で7回目、いよいよ本丸に乗り込もうというのか、企画室の意気込みが伝わってくる。

 女性奏者のけん引役であり、私のように音楽家を目指している女性にとってまさに「女神」であり、目標とする灯台のような存在の彼女たち。ジャズ界において奏者でありボーカリストでもある、というミュージシャンが少ない中、それぞれが果敢に取り組み挑戦しているその姿は、女性が本来持っている演者としてのしなやかさに加え、パイオニア的存在になりつつあるといえるだろう。

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 1stはハンク・モブレーの「This I dig of you」をインストで。ドラムレスで静かなバージョンが、かえって私の好奇心を沸き立たせる。2曲目と3曲目はさっそくボーカル&演奏をソロで披露。1番手の石川さんはyoutubeでおなじみとなったマイケル・ジャクソンの「Off the Wall」を。歌とベースの二刀流で弾きこなしていく様は実に堂々としていて頼もしい。石川さんの歌を初めて聞いた時、なんてあどけなくて可愛らしい声なのだろうと思ったが、この曲では一転、ぶっきらぼうに見えて芯のある歌い方に変貌し、「人生楽しんだもの勝ち!」というこの曲に、静かな情熱を込めている。

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 続いて市原さんが枯れたトランペットの音色を生かし、リチャード・ロジャースの「My Funny Valentine」。ご存じのとおり、トランペットを演奏しながら同時に歌うことは出来ない。そのハンディをチャレンジに代え、ボーカルとトランペットを即座に交互にこなすその演奏法に驚きを隠せない。私自身ジャズトランペットを演奏するが、唇にマウスピースが強く当たりすぎたりフィットしなかったりと、短時間では音を出す焦点が合いにくくなる。またマウスピースが歯とぶつかることで唇が怪我をして、その後の演奏に支障をきたす原因にもなり兼ねない。お客さんは微笑みながら楽しそうに聴いていたが、技術的にも非常に難しいと思われるこのチャレンジングな試み、ボーカル&演奏で一人二役という、この三人のチャレンジ精神の象徴のような一幕であったように思う。

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 ソロの最後は、宮本さんがホーギー・カーマイケルの「Georgia On My Mind」を弾き語り。18年在米した彼女が最も長い期間住み、今の宮本貴奈が築かれたであろう思い入れのある州歌でもある。帰国してお子さんも生まれ、もう戻ることはないだろうからこそ、ジョージアへの郷愁という歌詞がマッチしすぎて、つい共感し込み上げてくるものがあった。

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 5曲目は石川さんのボーカルによるアントニオ・カルロス・ジョビンの「No more blues(想いあふれて)」。元はポルトガル語だが、今回は英語で歌う。Off The Wallの時とは全く違い、あどけなくて可愛らしい声を使い分ける。ボサノバの曲調とウッドベースの温かい音色がマッチして、自然と体が揺れ癒される。

 次は市原さんをフィーチャーし、マイルス・デイヴィスの「Be Bop Lives」。市原さんは日野皓正さんの勧めで3年前からボイストレーニングを受け始め、『SINGS & PLAYS』というCDまで出している。ご本人が一番気に入っているCDなのだとか。トランペッターなのだから、スキャットはお手の物だろうと思いたいところだが、ボーカリストでも難しい技術な上に、市原さんが歌う英語はとても聞きやすく「今なんと言った?」と感じることが少なく歌詞がスムーズに伝わってくる。きっと日本人が聞き取りやすい発音も研究し工夫されたのではないかと思わせる歌いぶりに、市原さんのボーカルにかける熱量までもが感じ取れた。

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 1stセットの最後は三人でヴィンセント・ユーマンスの「Tea For Two」。ボーカルを担当した宮本さんのハスキーな声質が、このスタンダードをいっそう盛り立てる。宮本さんご自身、初レコーディングとなるヴォーカルを収録したCD『Wonderful World』にも収録、2020年度第33回ミュージックペンクラブ音楽賞の全ポピュラー部門の中で最優秀作品賞を受賞しているから、聴き応えは間違いない。

 15分間の休憩をはさみ、2ndセットのスタートは、宮本さんがテンポをとり三人のアカペラで挑んだカーペンターズの「Close To You」。和訳になじみのある私にとって、日本女性の奥ゆかしささえ感じられるこの歌詞を三人三様の個性で紡ぎ、本家カレンより厚みのある暖かいハーモニーとなっていた。全編を通じてだが、宮本貴奈さんの女性ボーカルを熟知したそのアレンジ力が光る。

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 次は二人ずつペアを組んで。市原さんと石川さんはビクター・シェルジンガーの「I Remember You」、宮本さんと市原さんはジミー・マクフューの「Moody’s Mood For Love」、宮本さんと石川さんでチャーリー・パーカーの「Ornithology」からの「How High The Moon」と続く。OrnithologyはHow High The Moonをコントラファクトしたことで有名だが公式の歌詞は存在せず、市原さんを真似てスキャットに挑戦してみたとお茶目に語る宮本さん。英語もネイティブ並みと思うのだが、その素晴らしいスキャットは本場そのものの匂いがしていて脱帽した。そうしてトリオ全員でパート・ハワードの「Fly Me To The Moon」、マイルス・デイヴィスの「Four」と続いた。お互いが楽器を演奏しながらボーカルを回し合うという、珍しい取組みは見ていて鳥肌ものだった。三人の歌声を一気に聴くことができる上、それぞれ声の特徴が全く違うのもかえっていつまでも飽きさせない。

 最後はアンコールに答え、どのライヴでも定番となりつつあるジョージ・ダグラスの「What A Wonderful World」。私はルイ・アームストロングがこの曲を歌っているのを(母が)分娩室で聴きながら産まれた。その話を聞いてからというもの、ジャズとの深い縁を勝手に思い描くほど大好きな曲。日本語では「この素晴らしき世界」という題名で有名なこの曲は、かわさきジャズのコンセプトにも合い通じるものがあるように思う。多様な人種や性、環境破壊や経済格差、国境による分断に世界中が心を痛める中、いつしか問題が解消され、互いに挨拶を交わし、互いを理解しあえる社会が来ることを決して諦めず、平和を共に紡ぐ時がいつか来るよと語りかけ勇気づける、これこそが音楽、そして歌が担ってきた大切な役割のひとつではないかと思っている。

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 三人は年代もそれぞれのバックグラウンドも歌の個性さえも異なる。けれども、ニューヨークでボーカリストのピアニストとして卒業後のキャリアをスタートさせた宮本さんは、個性の塊のような三人を生き生きと際立たせる妙技をお持ちのようである。もちろん、個々が努力の塊であることは言うまでもない。すべからく、女性は元々チャレンジ好きであるような気がしてならない。再演は言うまでもなく、日本ジャズ界の新しい試みとして、かわさきジャズに留まらない更なる進化やご活躍を心から期待してやまない。

Text:Nanaka Sakai / かわさきジャズ公認レポーター
Photo:Tak. Tokiwa

●公演情報
かわさきジャズ2021
「The Three Muses~ジャズヴォーカルの煌めき」
日時:2021年11月10日(水)
会場:ラゾーナ川崎プラザソル
出演:宮本貴奈(p、vo)、市原ひかり(tp、vo)、 石川紅奈(b、vo)

<SET LIST>
M1. This I Dig Of You
M2.  Off the Wall
M3. My Funny Valentine
M4. Georgia On My Mind
M5. No More Blues
M6. Boplicity
M7. Tea for Two (Three)

M8. Close To You
M9. I’ll Remember You
M10. Moody’s Mood for Love
M11. Ornithology 〜 How High the Moon
M12. Fly Me to the Moon
M13. Four

Encore 
E1. What a Wonderful World
posted by kawasakijazz at 11:16| Comment(0) | レポート2021