かわさきジャズ 公式ブログ

2020年11月23日

【かわさきジャズライブ in 川崎アゼリア】一流の演奏がフリーで4本。川崎の贅沢な日曜日

 ガラスの吹き抜けから明るい光が差し込んでいる。JR川崎駅に直結する地下街アゼリアの広場にセッティングされた決して大きくないステージ。客席は20脚。もちろん、充分すぎるほど前後左右に空間が保たれている。

 フリーライブ【かわさきジャズライブ i n 川崎アゼリア】が11月8日に開催され、第一部の【東京交響楽団 市内巡回コンサート in アゼリア】(20分×2回)と、第二部の【歌うブギウギピアニスト 荒井伝太スペシャルライブ in アゼリア】(同)が買い物客を喜ばせた。

黒ずくめの男四人が響かせる怪しげな調べ

 定刻通りに東京交響楽団(以下、東響)のメンバー4人が黒ずくめの衣装(自前だそうです)でステージに現われた。バイオリンの廣岡克隆、鈴木浩司、ビオラの多井千洋、チェロの蟹江慶行。平均年齢30代の若いメンバーだ。
 一曲目はオリヴァー・ネルソン(1932〜1975/アメリカ)の「ストールン・モーメンツ」。マネージャーの桐原美砂が打つマラカスに導かれるように、ブラックスーツの男4人が怪しげな四重奏を明るい街内に響かせると、違和感だらけの、なんともちぐはぐな空間が広がった(誉めています)。

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 演奏が終わると廣岡が東響の紹介をしつつ、「普段はコンサート会場でクラシックを演奏しています。アドリブに聞こえる所も全て楽譜に起こしています。だから百回演奏すれば百回同じ演奏ができます」とクラシック奏者らしい控えめな冗談(?)で観客をクスリとさせる。二曲目は「枯葉」を武満徹が弦楽四重奏のためにアレンジしたもの、三曲目はピアソラの「鮫」。どちらもオリジナルとは少し違い、特別感*檮レだった。
 演奏後、4人は「3曲とも、人前で弾くことはほとんどなかった。でも、とても楽しかった」と声を揃えた。「オープンスペースは時々、お互いの音が聴き取りにくいことがあるけれど、そこは信頼関係で」と多井。

 廣岡は「本当は薄暗い照明のバーでお酒を飲みながら聞くのが良かったと思う。日曜の昼間に合っていたかは疑問です」と悪戯っぽく笑った。
 「ジャズは不慣れ」と話す割に、澄んだ音色の中に、切れ味鋭い音をちりばめ、聴き応え充分。日本を代表するオーケストラのメンバーは、「結局、何でも弾ける」をいとも簡単に証明してみせた。全身黒の衣装は、「黒いスーツにしようと話し合ったけれど、中に何を着るかは自由にした」(廣岡)ということだが、ふたを開けてみれば、全員が黒のワイシャツに黒っぽいネクタイと息ピッタリ。演奏が乱れないのは当たり前か? 
 
サービス精神は演奏と衣装にも

 後半は、エンジ色のスーツに、黒のリボンタイ、ピンクのチーフを胸にさした荒井伝太(横浜市鶴見区出身)が颯爽と電子ピアノの前に座った。かわさきジャズ2020のキーアーティスト(本人曰くかわさきジャズ親善大使・宣伝部長)であり、テーマソング「ビューティフルスウィング」の作者。「秋に染まる頃、君に会える〜シュビドゥビ〜♫」と歌詞を書けば、あの曲かと思う人も多いだろう。

 自らを歌うブギウギピアニスト≠ニ名乗る弾き語りスタイル。衣装に負けないくらい演奏も派手で、鍵盤から両手を大きく離したり、グリッサンドを頻繁に行ったり。
 オリジナル曲の他、自身が敬愛するナット・キング・コールの「モナリザ」「ラヴ」、川崎にちなんだ曲として「上を向いて歩こう」、「黄昏のビギンン」など、レパートリーが幅広い。歌の代わりに口笛を吹き、MCの最中も、「香水」や鬼滅の刃の「紅蓮華」をちりばめる。
 荒井の歌は、ちょっと聞くだけでは、日本語の歌か英語の歌か分からない。活舌は良すぎるほどだし、声も耳に心地よく通るのに、前記の歌詞も「あ〜くぅぃ〜にぃ〜そっんまるこるぉ〜きぃみぃにぃあ〜えぇるぅ」と聞こえるせいだろうか。
 ある曲では歌い終わった瞬間に投げキスをしたりと、気障っぽく見えなくもないのだが、人懐っこい笑顔で全く嫌みがない。

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 サービス精神も旺盛でミューザが販売しているマスクやTシャツをユーモアたっぷりに宣伝。演奏終了後に高齢の女性から「私も旧姓があらいで、鶴見に住んでいるの」と話しかけられると、ニコニコと会話を続け、女性を喜ばせた。

 取材にも嫌な顔一つせずに応じ、「お客様が笑顔であれば満足。荒井伝太に会えて良かったと言われるよう頑張りたいし、家族に恩返しがしたい」と話す横顔に誠実さが滲んだ。
 
 川崎駅近くで行われた素晴らしい4本のフリーライブ。1本終わるごとにスタッフが椅子を一脚ずつ丁寧に消毒する。一部の廣岡は、MCになるとマスクをする。二部の荒井の前には透明なビニールが貼られている。

 観客は座る前に検温と手指消毒。鑑賞中もマスク着用。
 演者も観客も、これらに関して不満を言う人は誰一人いなかった。寧ろ、こういう中で開催にこぎつけたスタッフに心から感謝していた。
 でも、だからこそ…。来年は思い切り大声でブラボーと叫べますように、と願わずにはいられない。

(Text& Photo:Nanami T / かわさきジャズ公認レポーター)
posted by kawasakijazz at 13:32| Comment(0) | レポート2020
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