かわさきジャズ 公式ブログ

2020年11月30日

【ライブレポート】11/15「ジャズピアノ Battle ジャム」〜フィナーレは巨匠・山下洋輔率いるジャズピアニストのバトルジャム

 新型コロナウイルスの蔓延により、ライフスタイルだけでなくエンタメの在り方も変わりつつある中、「かわさきジャズ」は今年で6回目を迎えた。

 最終日11月15日(日)のフィナーレは、山下洋輔・スガダイロー・桑原あい・奥田弦の4名のジャズピアニストたちがミューザ川崎シンフォニーホール(以下:ミューザ)に集結。PAなし、グランドピアノ2台で紡がれる情熱的なピアノの生演奏「ジャズピアノBattleジャム」のライブレポートをお届けする。

 1,997席(車椅子席含む)あるミューザが誇る音楽ホールだが、国内アーティストのみの出演という縛りや観客動員数が通常の約半数など、今年は出演者とオーディエンスへの配慮に徹した会場作りがされていた。

 17時に開演。「かわさきジャズ」のロゴフラッグに赤の照明とピアノ2台というシンプルなステージ上に現れたのは、本ライブ最年少のピアニスト・奥田弦。奥田は19歳とは思えない上品でリズミカルな即興を披露。ジャズに敬意を払いながら自分が楽しむことを大事にしているピアノメロディだった。途中から登場した紅一点の桑原は奥田のスタイルに合わせながらも時にそっと寄り添い、時に風のように自由な演奏で魅せた。二人の競演作「マイ・フェイバリット・シングス」はタイトルどおり無邪気にお互いの好きなことを楽しく会話しているかのように弾んでいる。そのあとにバド・パウエルの「ウン・ポコ・ローコ」で見せてくれた超絶技巧は、滑舌よすぎるラッパーが韻を踏んでいるようだった。

 前半のゲストは、名トランぺッターのルイス・バジェ。バジェが出るだけで、ステージがより華やいだ。ミシェル・カミロの「カリベ」はフレッシュな桑原と奥田、そしてバジェの三人だからこそ、音楽の楽しさは万国共通だと思わせてくれるアンサンブルだった。

 陽気なグルーヴに包まれた前半を、後半登場した巨匠・山下洋輔とスガダイローはいとも簡単に壊してきた。スガが先にステージへ上がりピアノを奏で始める。理知的なスガはその雰囲気を纏ったまま鍵盤を叩いているのだが、突然大転調を巻き起こす。山下も同様で、たとえば「ボレロ」で叙情的で熟練した演奏技術を披露してくれるのだが、終盤に差し掛かると肘プレイが入ってくるなど、ピアノなのに爆音のような演奏で興奮と焦燥感を煽ってくる。穏やかな雰囲気の山下のどこに、こんな烈しさがあるのか。燃えるピアノを思い出した。 

 山下洋輔とスガダイローの二人のセッションの最後に残ったのは、狂気と狂喜が表裏一体な危うさと高揚感だ。前半の桑原と奥田が「陽」なら後半の山下とスガは「陰」と言ったところだろうか。最も、サックス奏者・平野公崇の伸びやかなサックスがあるので、その感情もどこか安心感には包まれるのだけれど。

 余談だが、ジャズのスタンダード「枯葉」は切ないナンバーの歌なのに、演奏終了後に山下が「やろうと思ったことをダイローが先にした」と言っていた。それだけ阿吽の呼吸が取れているのだと改めて感じた。それに納得したのは、「枯葉」の後の「キアズマ」である。二人はもともと一人だったのが分裂したのではないかと思うほどの鋭いピアノ捌きを堪能させてもらった。

 カーテンコールの後、6人が再び登場。アンコールの1曲目はセロニアス・モンクの「Well You Needn’t」。山下&奥田ペア、スガ&桑原ペアで各々のピアノを演奏。そしてバジェと平野が随所で仕掛けてくる。

 スガと桑原のピアノは、何本指があるのかと目を凝らしてしまうほどの疾走感と熱量が凄まじかった。対して山下と奥田はキラキラと円熟したサウンドで攻めてくる。さらに、バジェのエモーショナルなトランペットと平野のサックスと体全体でのドラマティックな演奏が拍車をかける。

 アンコールラストの曲は、奥田がアレンジした、キングクリムゾンの名曲「21世紀のスキッツオイドマン」。実はこの曲を聴くまで、フリージャズのパワーに圧倒されていたのだけれど、この「ピアノBattleジャム」で4人がテーマにしていたことは何なのかがやっと線になった気がした。

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 2020年は新型コロナウイルスで世界中の人々のライフスタイルや価値観が大きく変わってしまった。「21世紀のスキッツォイドマン」がベトナム戦争などを背景にディストピアな未来像を暗示した曲とされているが、現在の世界がコロナという、見えない動く壁に閉じ込められている、ある種のディストピアになっている。しかも、コロナにより起きている心身への影響は、「キアズマ」のメロディのように、私たちの価値観から体中の血まで作り変えられているのだ。予想外に起きた変化の中で、「マイ・フェイバリット・シングス」や「枯葉」に出てくる大好きな人やものを切望している。私たちは「ボレロ」のクレッシェンドのように、旋律とリズムを反復しながら、音量と音色を間違いなく変化させて生きているのだ。

 今、私たちは未曽有の苦境の中に立たされているけれど、それでも自分が守るべきもののために、生きていこう。今回のライブを通して、筆者は出演者全員から、そんなメッセージをいただいたと思っている。

 ラストの挨拶で桑原が言っていた「音楽は本当に必要なものだと思っている」、「ノー音楽、ノーライフ」と言っていたバジェの言葉が耳に残っている。自分にとって何が大切なのかは、結局自分で悩んで気づくものなのだと思う。ジャズはもちろん、音楽は私たちに時に優しく時に情熱的に問いかけてくれる。一見実用的ではないかもしれないけれど、音楽がこの世からなくなるなんて、考えるだけでも恐ろしい。それを教えてくれる濃密な約2時間20分だたった。最後は、こんなご時世だけど負けないと言わんばかりの、オーディエンスによる大きなスタンディング・オベーションで幕を閉じた。

TEXT:宮本知佳(かわさきジャズ公認レポーター)
PHOTO:青柳聡

◎公演情報
かわさきジャズ2020
【ジャズピアノBattleジャム】
日時:2020年11月15日(日)
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
出演:山下洋輔、スガダイロー、桑原あい、奥田弦
ゲスト:平野公崇(サックス)、ルイス・バジェ(トランペット)
posted by kawasakijazz at 12:27| Comment(0) | レポート2020
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