ラゾーナ川崎プラザソルでの「かわさきジャズ2021」3日連続公演の第一夜となったこの日。ホール内を見渡すと客層はやや高めで、メンバー全員が20代という彼らにとっては親世代、あるいはそれ以上の観客が大半、フェス発足当初から通も唸る本格ジャズ・アーティストの公演を毎年おこなってきた同会場ならではの客層といった印象だ。
ジャズ・シーンで活躍する若き才能たちが、ジャズの魅力をより多くの人たちに届けるべく結成された「Project M」。国内外のマスターピース(名曲)を彼らの感性で演奏するというコンセプトのもと集結したメンバーはみな20代の実力派揃いだが、Project Mとしてのフェス出演はこの日が初めてとのこと。そんな記念すべきショーのオープニングを飾ったのは、スティーヴィー・ワンダー「Superstition(迷信)」、続いて「スリラー」(マイケル・ジャクソン)と、序盤からソウルフルな洋楽ヒットナンバーで一気に客席に火を付ける。「みずいろの雨」(八神純子)は、この日のメイン客層にドンピシャだったか、コロナ禍でのコンサート特有の静かな手拍子とともに「見守る」スタイルだった観客たちが、次々に頭や体を揺らしはじめ、グルーヴに身を委ねる様子が視界に飛び込んできた。

主にメロディーラインを奏でる米澤だけでなく、楽曲ごとにメンバーのソロもたっぷりと、それぞれ見せ場を作りながら進行していく。また、華奢なルックスからは想像つかないくらいのエネルギッシュなプレイとは一転、毎回「ありがとうございましたぁ〜


プロジェクト結成からわずか2年足らずの間に3枚のアルバムをリリースしている彼らだが、この日は今年9月発売の最新作『THE MASTERPIECES III"Anime Jazz”』収録曲を多く披露。今ではその音楽性の高さが世界中に認知され、様々なアーティストにカバーされているアニメ・ヒッツの数々だが、彼らもまた独自の解釈でそれらを見事に再構築し、演じている。なかでも「CHA-LA-HEAD-CHA-LA」(ドラゴンボールZ)の、原曲のイメージの真逆(?)ともいえる洒脱なアレンジは、ドラゴンボール世代の筆者にとっては目からウロコもの。友田の奏でる瑞々しいピアノの音色にうっとりと耳を傾けていると、原曲の歌声が頭から遠ざかったり、ふたたび近づいたり、なんとも不思議な感覚に陥った。

第一部を「残酷な天使のテーゼ」(新世紀エヴァンゲリオン)で締めくくり、休憩を挟んで第二部へ。イギリスの伝統的バラッド「スカボロー・フェア」からの「Melody」(玉置浩二)と、冒頭から年代、国、ジャンル、あらゆる枠組みを超越していく彼ら。美空ひばりの「車屋さん」では、演歌特有の「こぶし」をウッド・ベースで表現するなど、テクニックだけでなく自由な感性・センスで名曲を演じてくれるのも楽しい。堅苦しく語られることの多いジャズを、誰もが知る「名曲」というフィルターを通して演じる姿は、「ジャズの魅力」「音楽の楽しさ」そのものである。
本編最後のナンバー「接吻」(ORIGINAL LOVE)から息つく暇なく突入したアンコールでは、満を辞して本日の客層にドンピシャであろうアニメ名曲「マジンガーZ」を投下。すでに「ここがホーム」と言わんばかりのムードに包まれた会場には、グルーヴに身を委ね、自然と笑顔を見せる観客たちの姿があった。この日一番大きな拍手の中、「はいっ、撤収ぅ〜!」という米澤の清々しい宣言とともにProject Mの記念すべき初フェスのステージは幕を下ろした。

Project Mの「名曲をジャズで」というコンセプトが、彼らの固定ファンだけでなく、多くの音楽好きが集うフェスティバルの場と相性抜群なことは言うまでもない。個人的にも、彼らに演じてもらいたい名曲を妄想しだせばキリがない。ぜひまた「かわさきジャズ」のステージに帰ってきてくれることを願う!
Photo:Tak. Tokiwa
●公演情報
かわさきジャズ2021「Project M〜名曲をジャズで」
日時:2021年11月9日(火)
会場:ラゾーナ川崎プラザソル
出演:Project M / 米澤美玖(sax)、友田ジュン(p)、カワサキ亮(b)、竹内大貴(ds)
<SET LIST>
01. Superstition
02. Thriller
03. 喝采
04. みずいろの雨
05. CHA-LA-HEAD-CHA-LA
06.残酷な天使のテーゼ
07. Scarborough Fair
08. Melody
09. 車屋さん
10. はじめてのチュウ
11. 接吻
Encore
E-1. マジンガーZ