「トロンボーン奏者・中川英二郎を中心としたトリオライブ」という頭で参加したのだが、ライブが始まるとすぐにその考えは打ち消された。3人それぞれの素晴らしい個性がライブをパワーアップさせているのだ。

トロンボーンのソロからはじまる「Air Mail Special」でライブの幕開け。快速調のブラス音が会場を一気に包みこむ。曲の途中で舞台右手より宮本貴奈(Pf)、左手より青木研(Bj/Gt)登場。バンジョーの素朴で繊細な弦音、ピアノのリズミカルなストライド奏法が加わり、スウィング感に満たされた客席からは拍手が沸き起こる。
続いて青木のバンジョーによるチックタック音から「大きな古時計」が始まり、バンジョーの多彩な音調に驚かされる。「My Favorite Things」で切ない音色を聴かせたと思えば、「Swanee」のバンジョーソロでは、ノスタルジックな旋律の響きを奏でる。
4弦しかないバンジョーを右手の3本指で高速回転させる青木の奏法はまさに超絶技巧。ライブ後半の「Rhapsody in Blue」で披露したバンジョーソロは、まるで一人楽団のアンサンブル演奏のようで、豊かな表現力だった。演奏前に青木本人は「本来はオーケストラ曲(Rhapsody in Blu)だから大変です。」と言って会場に笑いをもたらした。

宮本のピアノは軽妙で巧みなストライドタッチで、どこまでも優しい。ご本人曰く「ディキシーは1年生」とのことだが、とても信じられないくらいのびやかで、屈託がない。プロフィールを読むと様々な有名アーティストとの共演をし、作曲やプロデュースまでこなすのだから、多才な人だ。
ライブは、トラッドジャズというベースがありながらも、宮本の弾き語りによる小粋でメロウなヴォーカルがモダンな雰囲気を醸し出した。宮本が「Tea for Two」で弾き語りをすると、青木はギターに持ち替えて繊細な旋律を奏でた。中川との共作曲「Lady’s T Steps」(Tは、貴奈のイニシャルとのこと)や、彼女が1年住んでいたイギリス・コッツウォルズの美しい村をイメージしたオリジナル曲「River of Time」(中川とのDUO)もライブに変化をもたらし、楽しくなった。

ディキシーランドジャズについて中川がMCで語ったのは、「ディキシーランドジャズのルーツは、1900年から1930年。僕が生まれたのは1975年だから、僕が生まれる前のこと。今、自分がディキシーの生き字引になろうとしている。」と語っていた。
ライブで演奏された「I’m Getting Sentimental Over You」「Pennies from Heaven」「That’s a Plenty」などは、これぞディキシーという名曲ぞろいだけれど、懐かしくも新鮮な感じを覚えたのは、年月を経てもなお、今を生きる3人の一流奏者たちよって演奏されたからだろう。そして本来は、6人や7人で編成されるディキシージャズバンドが、才能豊かなトリオで演奏されることで面白味が一層増したのかもしれない。

中川のトロンボーンは華やかで迫力があるが、心地よい。時に伸びやかで柔らかく、ハーモニーに徹する懐の深さ。随所に本人の人柄を感じるようだった。
「Tiger Rag」で元気よくラストを迎えたが、拍手は鳴り止まずアンコールへ。「聖者の行進」では中川のボーカルも入り、最前列で指揮を取る男性の姿も微笑ましく、高揚感に満たされ終演した。

TEXT:中島 文子(かわさきジャズ公認レポーター)
PHOTO:Tak. Tokiwa
◎公演情報
かわさきジャズ2020 「TRAD JAZZ COMPANY “Trio”」 日時:2020年11月12日(木)
会場:ラゾーナ川崎プラザソル
出演:中川英二郎(tb)、宮本貴奈(p)、青木研(バンジョー)