かわさきジャズ 公式ブログ

2020年11月30日

【ライブレポート】11/12「TRAD JAZZ COMPANY “Trio”」

ラゾーナ川崎プラザソルには100程度の客席があり、舞台と客席が非常に近いつくりだ。私は、前から2列目、舞台右寄りに座った。

「トロンボーン奏者・中川英二郎を中心としたトリオライブ」という頭で参加したのだが、ライブが始まるとすぐにその考えは打ち消された。3人それぞれの素晴らしい個性がライブをパワーアップさせているのだ。

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トロンボーンのソロからはじまる「Air Mail Special」でライブの幕開け。快速調のブラス音が会場を一気に包みこむ。曲の途中で舞台右手より宮本貴奈(Pf)、左手より青木研(Bj/Gt)登場。バンジョーの素朴で繊細な弦音、ピアノのリズミカルなストライド奏法が加わり、スウィング感に満たされた客席からは拍手が沸き起こる。

続いて青木のバンジョーによるチックタック音から「大きな古時計」が始まり、バンジョーの多彩な音調に驚かされる。「My Favorite Things」で切ない音色を聴かせたと思えば、「Swanee」のバンジョーソロでは、ノスタルジックな旋律の響きを奏でる。

4弦しかないバンジョーを右手の3本指で高速回転させる青木の奏法はまさに超絶技巧。ライブ後半の「Rhapsody in Blue」で披露したバンジョーソロは、まるで一人楽団のアンサンブル演奏のようで、豊かな表現力だった。演奏前に青木本人は「本来はオーケストラ曲(Rhapsody in Blu)だから大変です。」と言って会場に笑いをもたらした。

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宮本のピアノは軽妙で巧みなストライドタッチで、どこまでも優しい。ご本人曰く「ディキシーは1年生」とのことだが、とても信じられないくらいのびやかで、屈託がない。プロフィールを読むと様々な有名アーティストとの共演をし、作曲やプロデュースまでこなすのだから、多才な人だ。

ライブは、トラッドジャズというベースがありながらも、宮本の弾き語りによる小粋でメロウなヴォーカルがモダンな雰囲気を醸し出した。宮本が「Tea for Two」で弾き語りをすると、青木はギターに持ち替えて繊細な旋律を奏でた。中川との共作曲「Lady’s T Steps」(Tは、貴奈のイニシャルとのこと)や、彼女が1年住んでいたイギリス・コッツウォルズの美しい村をイメージしたオリジナル曲「River of Time」(中川とのDUO)もライブに変化をもたらし、楽しくなった。

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ディキシーランドジャズについて中川がMCで語ったのは、「ディキシーランドジャズのルーツは、1900年から1930年。僕が生まれたのは1975年だから、僕が生まれる前のこと。今、自分がディキシーの生き字引になろうとしている。」と語っていた。

ライブで演奏された「I’m Getting Sentimental Over You」「Pennies from Heaven」「That’s a Plenty」などは、これぞディキシーという名曲ぞろいだけれど、懐かしくも新鮮な感じを覚えたのは、年月を経てもなお、今を生きる3人の一流奏者たちよって演奏されたからだろう。そして本来は、6人や7人で編成されるディキシージャズバンドが、才能豊かなトリオで演奏されることで面白味が一層増したのかもしれない。

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中川のトロンボーンは華やかで迫力があるが、心地よい。時に伸びやかで柔らかく、ハーモニーに徹する懐の深さ。随所に本人の人柄を感じるようだった。

「Tiger Rag」で元気よくラストを迎えたが、拍手は鳴り止まずアンコールへ。「聖者の行進」では中川のボーカルも入り、最前列で指揮を取る男性の姿も微笑ましく、高揚感に満たされ終演した。

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TEXT:中島 文子(かわさきジャズ公認レポーター)
PHOTO:Tak. Tokiwa

◎公演情報
かわさきジャズ2020
「TRAD JAZZ COMPANY “Trio”」
日時:2020年11月12日(木)
会場:ラゾーナ川崎プラザソル
出演:中川英二郎(tb)、宮本貴奈(p)、青木研(バンジョー)

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2020年11月25日

11/13「しんゆりジャズスクエアvol.44 」〜田辺充邦が魅せるウェス・モンゴメリーの世界

 田辺充邦(g)、岡淳(ts)、西川直人(org)、井川晃(ds)による【しんゆりジャズスクエアvol.44 Tribute to WES MONTGOMERY Legend of Jazz Guitarist】が11月13日に川崎市アートセンター アルテリオ小劇場にて行われた。

 このライブは「かわさきジャズ 2020」の連携公演であり、幅広い年代のオーディエンスが開演を待ちわびていた。19時になり、一曲目「Road Song」がスタート。田辺のギターの旋律はもちろん、西川のオルガンと井川のドラムのアンサンブルも心地良く、一気にウェス・モンゴメリーの世界へと引き込まれる。

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 10年の歴史がある「しんゆりジャズスクエア」。田辺(g)は「かなりの数、出させて頂きましたが、苦節10年、初めて真ん中にきました!」と今回の公演に感動もひとしお。ウェス・モンゴメリーモデルのギターを手にした田辺のプレイに一層の期待が高まる中、スタンダード・ナンバー「酒とバラの日々」でゆったりと多幸感に包まれる。MCでは、田辺(g)がウェス・モンゴメリーにちなんだジョークで会場を和ませる一幕も。続いて田辺(g)の先輩だというゲストのサックスプレイヤーの岡が登場し、ウェスのオリジナル曲「West Coast Blues」を披露。軽快なサウンドに、こちらまでリズムを取らずにはいられない。

 ウェスの親指によるピッキング、オクターブ奏法は、親指で弾くと何とも言えない温かい音がするという。実際に田辺(g)が実演してみせた。そして、ジャズのスタンダードナンバー「Summertime」をウェスがコードを細分化して書いたという「4×6」では、疾走感のある演奏に思わず聴き入ってしまう。この曲ではメンバーが楽しそうに笑顔を見せているのが印象に残った。演奏を終えると、「鬼のような曲がたくさん待っていますので!」との言葉を残し、休憩へ。ノラ・ジョーンズの「Summertime」も好きだが、また違ったアレンジで曲が聴けるのも贅沢で嬉しい。

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 オーディエンスの温かい拍手からスタートした2部。爽快なナンバー「Full House」で会場は一気に灼熱に。一風変わったブルース・ナンバー「Fried Pies」では、紫色の照明とギターソロ、ノスタルジックなオルガンの生み出すグルーヴに存分に酔いしれた。お酒を飲みながら聴きたい一曲である。

 続いて、田辺(g)が大好きだという、オードリー・ヘプバーンの映画『マイ・フェア・レディ』の劇中歌「I've Grown Accustomed to Her Face」を披露。同曲はウェス・モンゴメリーのアルバム『Full House』にも収録されているナンバーだ。そして、最後の曲は、ウェス・モンゴメリーの中でも一番難しいという「SOS」をパフォーマンスし、会場も情熱的なサウンドにのせてヒートアップ。

演奏の終盤に田辺から「本日は、ありがとうございました!次回は、半年間空いてしまったので攻めていきます。1月22日にしんゆりジャズスクエア、コール・ポーター特集をやります」と嬉しいお知らせもあり、盛大な拍手とともにアンコールへ。

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 アンコールでは、田辺がウェス・モンゴメリーモデルのギターとの不思議な縁について語り、次にアルバムを作るときに入れたいという胸に染み入るようなバラード「Too Late Now」でオーディエンスを魅了。そして、最後に再び「Road Song」を演じ、ショーの幕を閉じた。

 卓越した演奏技術はもちろん、ラジオ番組のパーソナリティーも務める田辺によるユーモア溢れるMCもオーディエンスを引きつける魅力のひとつであると感じた。そして、演奏を通じてウェス・モンゴメリーの楽曲や世界観に触れられたことがなにより嬉しく、本公演を実現させたスタッフ、4人のミュージシャンに心から感謝したい。

(Text:Chisato / かわさきジャズ公認レポーター)

◎公演情報
しんゆりジャズスクエア vol.44
「Tribute to WES MONTGOMERY Legend of Jazz Guitarist」
日時:2020年11月13日(金)開演 19:00(開場 18:30)
会場:川崎市アートセンター アルテリオ小劇場
出演:田辺充邦(g)、岡淳(ts)、西川直人(org)、井川晃(ds)
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2020年11月23日

【ライブレポート】11/11「Colorful JAZZ vol. 2」細川千尋、山下 伶、はたけやま裕が奏でる幸せのメロディ

 細川千尋(p)、山下 伶(クロマチック・ハーモニカ)、はたけやま裕(per)が昨年、大好評を博した、かわさきジャズ2020オリジナル企画の第2弾【Colorful JAZZ vol. 2】が11月11日にラゾーナ川崎プラザソルにて開催された。

会場には、始まる前から3人の美しいメロディを心待ちにしているオーディエンスで期待感に溢れていた。
温かい大きな拍手と共に、山下のクロマチック・ハーモニカから1曲目「Isn’t She Lovely」 がはたけやまのウィンドチャイムと細川のピアノの小粋なリズムで可愛らしく始まる。スティーヴィー・ワンダーの名曲だ。赤く情熱的な照明で、細川の左足でリズムを刻んでいるのが印象的であった。

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MCでは「昨年、来て下さった方は、いますか?」と呼びかけ、客席からは、多くの手が挙がる。3人のメンバー紹介の後に山下が「ハーモニカは、元々アコーディオン、リード楽器の仲間」と、リシャール・ガリアーノ「Tango pour Claude」で、ピアノの華麗な旋律から始まり、カホンと合わさり、クロマチック・ハーモニカから奏でるメロディに強い意志が感じられた。途中の細川のピアノと、はたけやまのパーカッションのソロで見せた山下の笑顔に、こちらまで夢の中にいるかのような温かい気持ちにさせてくれる。

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続いて、イタリア映画の曲、ヘンリー・マンシーニ「Sunflower」は、山下が2011年にクロマチック・ハーモニカを始めるきっかけになった人生を変えた思い出の曲だという。音楽短大を卒業し、フルートを吹いていた彼女は、当時音楽を辞めようと思っていた気持ちを再びこの「Sunflower」が導いてくれたのだ。彼女が最初の一音から心が持っていかれたというように、哀愁を誘うクロマチック・ハーモニカの響きが胸に染み入る。それと同時にハーモニカ発祥の地、ドイツの風景も目に浮かんでくるようだ。

はたけやまの「皆さんも、そういう人生を変えるきっかけって、ありますよね?」との問いかけにオーディエンスも、うんうんと頷く。
細川も、しばらくピアノから遠ざかっていた時に、コトリンゴのピアノを弾いて歌っている姿に
もう一度音楽をやろうと思ったという。「人生って、分からないですよね」と、彼女は言う。
まさにその通りだと私も思う。だからこそ、音楽も人生も楽しいと感じられる。
はたけやまも音楽の接点は、ピアノが最初であり、中学の吹奏楽部で打楽器に出会ったが
高校で辞めようと思っていた時に、プロの方に「打楽器、続けなさい!続けるならプロを目指しなさい」と言われて、今の彼女がある。そういう誰にでもターニングポイントは、あるものだ。

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そんなはたけやま選曲の桂枝雀師匠の出囃子「昼まま」を最初に原曲を1コーラス流し、聴かせてくれた。よく耳にする三味線と太鼓の音で、今すぐにでも落語が始まりそうな感覚になってくる。それに続き、3人でジャズアレンジした「出囃子〜昼まま」が原曲とは違う世界観で披露された。今までで一番上手くいったみたいで、大きな拍手がステージに送られ、オーディエンスの興奮冷めやらぬ中、細川選曲のポール・デスモンド 「Take Five」が演奏された。昨年の公演では、スタンダードジャズが少なかったことから選曲され、ワインレッドの照明と共に、とても切ない感じで個人的には、好きな曲調であった。

 休憩の後は、バート・バカラック 「Alfie」のゆったりとした夜眠る前の優しさに包まれるような3人のサウンドが溶け合う演奏に聴き入る。
前半の衣装から打って変わって、素敵なピンクのドレスの細川は、この「Alfie」も人生を変えてくれた大好きな一曲だという。「先日、リハーサルをしていた時に、なかなか激しめの曲が多くて、私たち、けっこう激しめの女なんじゃないかという選曲だったんですよね」という細川に会場が微笑ましい様子になる場面も。この公演で初めて音を出して、本番がいつも一番上手くいくみたいで、こちらまで幸せな気持ちになる。

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続いて、その細川のオリジナル曲「黎明(れいめい)」では、疾走感のあるサウンドで天高く昇っていくようなキラキラした感じで聴かせてくれる。ときには椅子から立ち上がり、ピアノを弾く彼女に力強さを感じる。同時に2人とのアイコンタクトでは、この曲を楽しんでいるという、今の一瞬が大切なように思えた。この曲の意味は、「夜明け」「始まり」、そして細川の父が名付けたのだそう。
はたけやまもオリジナル曲「Crossroad」では、カホンをフィーチャリングして疾走感のある圧巻のステージであった。この曲は、その名の通り、車の歌で長い時間練習、特訓をし、2人からは、はたけやまを「先生!」と呼ぶ一幕も。

その後、今回披露した曲などが入っている3人それぞれのアルバム紹介をしつつ、はたけやまが「鬼滅の刃」に詳しいことから、会場に併設されている映画館でレイトショーを観よう!などと、話題が盛り上がりをみせて和やかムードに。
そのムービーメーカー、はたけやまの選曲「よだかの星」は、文学作品、宮沢賢治「よだかの星」から取ったタイトルだといい、星になって永遠に輝き続けて高く飛び上がるようなクロマチック・ハーモニカの叙情的な3人のアンサンブルに引き込まれる。

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最後に「たくさんの方々に来て頂いて嬉しい!」とオーディエンスに伝え、デューク・エリントン「Caravan」を7拍子のアレンジと共にサビはラテンで、まるでジャングルにいるかのようなカラフルな演奏で会場の熱気が最高潮に達した。
鳴り止まない盛大な温かい拍手の中、アンコールでは、バート・ハワード 「Fly Me To The Moon」をピアノからのイントロ、クロマチック・ハーモニカの旋律、パーカッションの安定感で、しっとりとロマンティックなサウンドに酔いしれる。この曲を嫌いな人は、いない気がする。もちろん、私も大好きな曲である。


演奏を終え「また、来年お会い出来る日を楽しみにしています!ありがとうございました」と3人が笑顔で手を振って、まさにカラフルな一夜となった。

今年は、なかなかライブ、フェスティバルの開催が困難な状況だが、「かわさきジャズ2020」が開催されたことが嬉しく、感謝の気持ちでいっぱいである。終演後に、オーディエンスから3人へ花束を渡す場面や細川がピースをしているシーンもあり、この世の中が平和であってほしいと願うばかりである。「ジャズは橋を架ける」、この公演に少しでも花を添えられていればと思う。

Text:Chisato / かわさきジャズ公認レポーター
photo:Tak. Tokiwa

◎公演情報
かわさきジャズ2020
「Colorful JAZZ vol. 2」
2020年11月11日(水)@ラゾーナ川崎プラザソル
出演:細川千尋(p)、山下 伶(クロマチック ・ハーモニカ)、はたけやま裕(per)
posted by kawasakijazz at 14:41| Comment(4) | レポート2020